にくのひと

 映画「にくのひと」をひとまち交流館京都で観てきた。(主催 ドキュメンタリー・フィルム・ライブラリー)

 「反貧困学習」では最後の教材となっている「差別を見抜く力」でも取り上げている「と場」で働く人たちのドキュメンタリーなので、前からずっと観たいと思っていた。監督は大阪芸術大学の現役の大学生で、「ゆきゆきて、神軍」を撮った原一男が指導している。映画上映の後には、監督のトークライブもあった。

  まず、映画については、「と場」での仕事風景は、「いとし・こいし」を思わせる元仕事人のおじいちゃん2人の掛け合いの解説付きで、実にいきいきと映像に撮られている。

 以前、松原のと場に見学に行ったことがあるが、こんなに全工程をしっかりと観ることはできなかった。2回目の撮影に入ったときは、1人で自由に撮影させてもらったそうなので、それがよかったのかもしれない。「いのちの食べ方」よりもよかったいう感想もあった。

  この監督は、高校生の頃に吉野家の牛丼でバイトしていて、素直にこの肉はどうやって牛が肉になるのだろうかという関心をもったのが動機だという。しかし、と場を撮るのならそこで働く人も撮れと原一男に言われ、インタビューも入れたという。

 しかし、撮影を許可してくれると場はなかなか見つからなかったところに、ジャーナリストの角岡伸彦さんと出会い、加古川食肉センターを紹介してもらったそうだ。ちなみに、私と角岡さんとは学生時代からの知り合い。脳性まひ者の介護つながりだ。「ホルモン奉行」で知られている。

  「と場を撮るなら、もっと部落問題をしっかり勉強しろ」と言われたこともあったそうだ。しかし、純粋に「牛が肉になる過程を知りたい」という青年にと場で働く人々が、ありのままの姿を撮らせているところがいい。

978-4-7503-2958-1.jpg しかし、と場で働く人々の内面をどれだけ描ききれたかは疑問だ。インタビューとして迫りきれていないと感じた。私がもっとも気になった場面は、と場で働く父親が幼い息子に「お父ちゃんの仕事がみてみたい」といわれる場面だ。ここにどう切り込むかがこのドキュメンタリーを観ているものの内面を突き刺せる映像を撮れるかどうかだったと思う。この場面は息子の無邪気(しかし、とても残酷)な仕事に対する想像に対して、苦笑いする父親の映像のみで終わっている。

 と場で働く父親をもつ子どもの葛藤をロールプレイとして「教材化」した本がある。「反貧困学習」でも紹介した「身近なことから世界と私を考える授業 100円ショップ・コンビニ・牛肉・野宿問題」(開発教育研究会 明石書店)だ。この本には残念ながら、この学習を通して子どもたちがどう感じたのか、特に当事者性をもつ子どもや親がこのロールプレイで何を感じとったのかは、紹介されていない。私自身も職業差別を受ける側の「家系」として育ったので、とても気になる。

 この映画では、部落外からと場で働くことになった青年のインタビューが中心となっている。監督である大学生は、部落を校区にもつ中学校の出身だそうだ。当たり前のように、部落の友たちがいたという。きっと、インタビューした青年を通して監督自身の部落問題を撮っていたのだろう。

 原一男がこの監督に向き合わせたかったことは、映画を通して自分自身を撮れということだ。原一男がかつてそうしてきたように。卒業作品は自分の父親を撮った『父、好美の人生』だそうだ。河瀬直美がそうであったように、「私」映画を撮って初めて映像表現の意味と向き合えるのかもしれない。

  満若勇咲という若き監督の今後に期待したい。

  それにしても、参加者の素朴な部落問題に対する質問に答えられないようじゃ、ちょっとこの映画会を主催するには「勉強不足」だと思う。

  7月19日には「鉄を喰らう者たち」というバングラデシュのチッタゴンの船舶解体現場で働く労働者のドキュメンタリーだそうだ。講演は、昔いっしょにベンガル語をならっていた人だ。また、観にいこう。

 ちなみに、帰りには伏見の酒を買って帰った。酒屋で飲んだ「英勲 生詰 純米大吟醸」はとてもおいしかったが、買って帰ったのは「みやこつる 純米大吟醸」。ちょっと後悔。


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コメント 2

あだち

通りすがりです。

「鉄を喰らう者たち」東京で上映された際に見に行きました。
私はチッタゴンに居たので、映画で出てくる北部から来る人の言葉が
なかなかわからず(もっとも、ダッカに居た人からするとチッタゴン訛りもわからない)
出だしは頭にクエスチョンがつきました。

環境の話ではなく、貧富の差の実態と外国人がなかなか入ってみることの出来ない
場所をありありと写していて、日本からも出る廃船の話がリアルに伝わる話だと思います。

by あだち (2009-07-01 22:07) 

shapla

あだちさん

 コメントありがとうございます。JOCVでバングラに行かれていたのですね。JETROのHPには、バングラデシュにも日本の企業が安い労働力を求めて、進出していることが報告されています。チッタゴンには、日本の自動販売機の光るボタンの製造工場もあるそうです。ユニクロも生産国の一つにバングラを選んだようですね。

 映画観てみます。
by shapla (2009-07-03 22:11) 

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