何を「意識化」するか

 下の絵はバングラデシュの成人識字学級で使用されていた教材の1ページである。これらの教材はブラジルのスラムで成人を対象に識字を実践したパウロ・フレイレの「意識化」とう理論に基づいて作成されている。左側の絵は、絵の下に書かれているベンガル語の文章の上段を表し、右側の絵は、文章の下段を表している。何と書かれているか、絵を見て考えてください。文章は「何々しようか、それとも何々しようか?」と書かれている。

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 まず、左側の絵は一人の男(ちょっと服装が違う)からお金を借りているようだ。その証文らしきものに、拇印を押しているように見える?右側の絵はそれに比べて多くの人の前でお金を借りているようだ。しかし、お金を貸している側の服装も借りる側と同じように見える。(バングラデシュの貧農はルンギと言われる腰布を巻いている)

 実際のバングラデシュ農村の識字学級では、このように学習がすすめられる。学習者(貧農)と促進者(参加体験型のファシリテーターとはもともとここからきている)の対話から始まる。
 左の絵を指して、「あなたたちもこんなことがあったか?」「あった、あった。子どもが病気になったときに、薬を買うお金がなくて、どうしようもないから村の高利貸しに金を借りたんだ」「金を借りるときは、どんな条件で借りたんだい?」「それがとにかく子どものことが心配で、何でもいいから金を貸してくれって言ったら、じゃこの証文に拇印を押せって言われたんだ」「その証文になんて書いてあったんだい?」「読めるわけないじゃないか。でも後から、その借りた金をもっていってもその倍の金をよこせって言われたんだ」「どうして?」「その証文には利率がかいてあったらしいよ」「おれもそんな目にあったよ」
 右の絵を指して、「じゃいまはどうしてるんだい?」「それは俺たちで作ってるこの貧農組合でみんなが少しづずつ貯めた組合基金から、なんかあったときには金を借りるよ」「これまでと何が変わった?」「もちろん、字を読める金持ちにだまされなくなったし、この基金で牛を買ったりして商売もできるようになったよ」「おれたち一人じゃできなかったことが、組合を作ることでいろんなことできるようになったよ」「でも、字も覚えなくちゃ商売するときに困るよな」「そうだ、おれたちの生活をおれたち自身でよくするために、この組合と文字が必要なんだ」この下の文章は「われわれは高利貸しから金を借りようか、それとも組合から金を借りようか?」って書いてあるんだ。一つ目の「アムラ(われわれ)」という文字は前にも学習したよな。
 という具合に学習がすすめられる。教材に書かれている内容は、すべて学習者の生活に密着していて、彼(女)らの置かれている社会的状況を「意識化」し、その状況を主体的に変革できるようなものから構成されている。つまり、学習者は文字を獲得すると同時に世界を獲得していくのだ。

 私が教材を作成するときも、常にいま学習者が向き合うどのような現実を「意識化」すればよいのか、そしてその現実をともにどう変革していけばよいのかを考えるようにしている。
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